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わたしが正義について語るなら(やなせたかし)


先月、94歳でお亡くなりになった、やなせたかしさん。子どもたちの人気者、アンパンマンの作者として有名です。

私は、テレビで気持ちよさそうに歌う、陽気なやなせさんを何度か拝見して、その人柄にも惹かれていました。

94歳。天寿を全うされた、というお歳です。それでも、とても寂しい思いがします。

「わたしが正義について語るなら」。やなせさんが90歳のときに書いた本です。

もともとは正義について、子ども向けに書かれた本。でも、やなせさんの人生観、仕事観なども知ることができる、 大人にとっても読み応えのある1冊です。

アンパンマンが生まれたのは、やなせさんが50歳を過ぎてから。 しかも、最初は「こんなものは売れない」と言われていたそうです。

それから、漫画界の巨匠、手塚治虫さんはずいぶん昔の人に感じますが、 実はやなせさんよりも10歳年下。 ご一緒に仕事をしたこともあるそうです。

本書の中で、印象にのこった言葉をいくつかご紹介します。

『正義はある日突然逆転する。 逆転しない正義は献身と愛です。』

昨日まで正義だとされていたことが、次の日は悪になる。 戦争を経験したやなせさんの重い言葉です。

『悪人といえども、全部まっくろの悪人じゃない。 善人のも悪い塊はある、悪い人間にも善良な部分はある、 ただ悪いやつには悪い分量が多すぎるというだけで、全部まっくろじゃない』

アンパンマンにでてくる、ロールパンナちゃんは、そんなことを意識してつくられたキャラクターだそうです。

「子ども向けの話だからといって、善と悪の対決だけにはしたくなかった」。 そんなことも書いてあります。

実際の現実世界でもそうですよね。 完全に悪/善にわけられるなら苦労しない。

グレーの部分がみんなにあって、それがその時、環境によって変わってくる。だから難しい。 

『メソッドをつくる簡単な方法はなくて、やってやってやりまくっているうちにいつの間にかできてくる』

『とにかく何かをやりたいと思ったら、他の教養もつけないとダメ。ひとつだけだとそこから出られません』

仕事観のお話。 一見反対のことを言っているようですが、 まさにやなせさんの人生を表している気がします。

漫画家としてのヒットに恵まれず、とにかく色々なことをしてきたやなせさん。

でも、漫画への思いはずっと持ち続けていた。そして、詩や童話も好きで、そちらの知識があった。

だから、晩年、絵本作家として花開くこととなったわけです。

教養は、「武器」になる。そんなことをおっしゃっています。

育児の中で「アンパンマン」に助けてもらったこと。数えきれません。

子どもはなぜかアンパンマンが大好き。子どもは丸顔が好きだからかな?と以前は考えていました。

でも、今になって気づきます。

ヒーローらしくないヒーロー。弱点も多く、すぐにヘロヘロになってしまう。 正義だ正義だといばらない。憎めない悪者たち。懲らしめるけど、追い詰めない。

そんなやなせワールドに、子どもも大人も惹かれているんです。

この本は、「アンパンマンのマーチ」の歌詞の紹介で終わります。

歌の中の、「愛と勇気だけがともだちさ」というフレーズ。なぜ『愛と勇気だけ』なのか?不思議に思った方もいるかもしれません。

実際に、抗議がきたこともあったそうです。でも、ここにはやなせさんの正義観がこめられているんです。

他にもたくさん面白いエピソードがつまっています。おすすめです。